最近になり、新型コロナ感染症の重症化に関して、産経新聞に重要な指摘がされていました。
それは、新型コロナウイルスの患者が重症化するメカニズムが最近の研究で明らかになってきたということで、生命を脅かす重い肺炎は、自分を守るはずの免疫が過剰に働くことで起きている可能性が判明したというものです。これはまさに、私が3月18日の内閣委員会における質疑において新型コロナウイルス感染症対策について西村担当大臣に質問した際に指摘した、「サイトカインストーム」が生じていた可能性を指摘するものです。
サイトカインは、主に免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っています。さまざまな種類のサイトカインが発見されていますが、それぞれ細胞表面に存在する特異的受容体を介して細胞内へ情報が伝達されます。がんや病原体などの異物が免疫細胞により認識されると、インターロイキン類、インターフェロン類、腫瘍壊死因子類およびケモカインなどのさまざまなサイトカインが放出され、多様な免疫応答が誘発されます。(以上ヤクルト中央研究所HPより)ところが、感染症や薬剤投与などの原因により,血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり,その作用が全身に及ぶ結果,好中球の活性化,血液凝固機構活性化,血管拡張などを介して,ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行し、この状態をサイトカインストーム(cytokine storm)といいます。マスコミやワイドショーでもここ数日しきりに報道されるようになっている血栓及び塞栓の形成もまさにこの一種である可能性が高く、当初より私がある一定程度の死亡原因は肺炎単独でなく、多臓器不全ではないか、と指摘したこととも矛盾しません。また、1918〜1919年に流行したスペイン風邪では、死者の数は5千万〜1億人とされていますが、中でも健康な若者の死者が多かったとされており(実験医学ONLINEより)、この理由としても、サイトカインストームの関与が推測され、近年でも、SARSでの重症化や2009年新型インフルエンザ (H1N1) で基礎疾患のない若者の死亡率が高いことも同様の説明がなされています。
私 吉田統彦は、3月18日の質疑において、コロナウイルス感染症の重症化の機序を明らかにすることが重要と主張し、その中で、高齢者及び基礎疾患をお持ちの方のリスクが高いのは感染症の常識であり、それよりも問題とすべきは、元気で基礎疾患も何もない方や壮年及び若年の方の重症化、例えば報道されていた二十代の看護師さんが人工呼吸器管理になっている病態などこそしっかりと解明すべきと指摘しました。つまり、重症化の機序が解明し、重症化率を引き下げることが国民の命を守るために極めて有益であると指摘し、例えば、若者の重症化例等を中心に、サイトカインストームが起こっている可能性や機序を政府及び感染研が集中的に検索、解明をしていく努力をすべきではないかとも質問しましたが、これに対し、厚生労働省は若者も含め調査を進めているとのことでした。この質疑から2か月近くがたち、ようやくサイトカインストームが重症化に関わっている可能性が指摘されたとのことで、今後重症化を抑える研究、医薬品の開発などに弾みがつくと期待されます。
産経新聞5月4日の記事では、コロナウイルスにおけるサイトカインストームについて、“免疫の働きを高める「インターロイキン(IL)6」というタンパク質が体内で過剰に分泌されると、免疫細胞はウイルスに感染した細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃してしまう。死亡した患者はIL6の血中濃度が顕著に上昇していたとの報告もあり、重篤化の一因として指標に使える可能性がある。感染初期は免疫力を高める必要があるが、重篤化すると逆に免疫を抑える治療が必要になるとみられる。そこで有望視されるのが、中外製薬のIL6阻害薬「アクテムラ」だ。関節リウマチなどに使う薬で、同社は新型コロナ向けに治験を行う。(量子科学技術研究開発機構理事長で免疫学が専門の)平野俊夫氏は「新型コロナは免疫の暴走を抑えられれば怖くない病気だと思う。治験が効果的に進むことを期待している」と話す。“
同量子科学技術研究開発機構は4月15日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で生じる急性呼吸器不全症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)が、サイトカインストームにより発症するサイトカインリリース症候群(CRS: Cytokine Release Syndrome)である可能性とそれを防ぐ治療標的としてIL-6-STAT3経路を提唱したことを発表していました。私自身もかつてJAK-STAT 経路 特にIL-6-STAT3 経路の研究をしていたこともあり、それに関する論文も複数書かせて頂きました。STAT3の活性化などからIL6の放出が起こるわけですが、サイトカインストームとそれに伴うCRSが重症化の要因とすると、これを防ぐためにはIL6阻害薬である例えばアクテムラをいち早く使用すれば重症化を防げる可能性があるなど、感染後の治療においても光明が見えてきます。
現在は治まりつつあるコロナウイルス感染症ですが、今回の流行が終息したとしても、今後の第2波以降に対して有効な治療法として、官民が協力して取り組んでいくべきです。
私は、衆議院議員として、また医師として、国民の皆様が安心・安全に暮らすことができる社会を構築するため、これからも、政府に訴えていきます。皆様のお声をお寄せください。
衆議院議員 吉田つねひこ 拝